彫る文字

 

「彫る文字」の前に私たちの生活の中の「彫る」という文化について考えてみたいと思います。アートの世界には「彫刻」があります。「版画」という世界もあります。彫刻は主に立体を造り、版画は木や石等を彫り、紙、布等をあてて絵などを刷り移します。版画は何枚も刷り起こすことが出来るので「新聞」や「本」を作ったりの印刷の世界へとなりました。

小学生の時柔らかい木を彫って「年賀状」を刷って作ったのを覚えています。今では鉛筆を削るナイフさえ持たせない教育が主流、ましてや彫刻用の彫刻刀を持たせて版画を作ることはあるのでしょうか?

このような日常の「彫刻」の文化が、遠のいてゆく現在ですが、「印章」即ち「印鑑」は使われています。

印鑑は「彫刻」の技術がないかぎり作れないもの、原則左右の「逆さ」を原則にして「彫る」技術が必要です。印鑑ではこの逆さ文字を土台に書くことを「字入れ」と呼んでいます。現在ではコンピューターの技術を使ってこの「字入れ」を簡単にする方法が用いられる場合も多く、逆さ文字を「字入れ」する職人も少なくなっています。こうした機械によって「印鑑」を作ると、本来「一字一字」が異なっていないと意味をなさない「印鑑」の意味が失われます。この印鑑の意味が失われつつある事と手書きで「サイン」することが入り混じっているのが今の日本の状況です。

元もと「字入れ」する文字を手書きする段階で同じ文字は書けません。これを逆さに「字入れ」をして、ここから「荒彫り」から仕上げ迄手仕事でしてゆく作業では当たり前に「同じ文字」は仕上がりません。まして、これを意図して彫れば尚更です。本題から話が逸れたようにも思いますがこの「逆さ文字」について考えるとき「こんな文化の中に私たちは実はいるのだ」と思いめぐらせて頂くのも・・・・と思って少し寄り道をさせて頂きました。

では、「何故」古来中国から日本へ渡ったこの「印章」の文化、何故日本で必要だったのでしょうか?世界で一般の庶民が持つこともなく、許されなかった時代もあった「印章」が日本の社会に浸透したのは何故だったのでしょうのでしょう?「印章」「印鑑」の意味と歴史はなかなか興味深いものがあります。機会があればこれも探ってみたいと思いますが、先ずは「彫る文字」について?探ってみたいと思います。

初めての文字とされる象形文字を彫るとどんな形になるか?「山」という文字を例に図で示しています。現代のように「彫る」ための道具、「彫る土台」が特になかった時代の話しとして考えてみてください。また、ここの例は中国から伝わった漢字を例にしています.

 

 

2015.5.21                                             ながの ひろゆき